AHAコース内容と日本における臨床現場の知識との整合性について
 
  AHAコースは以前にもお話した通りですが、アメリカの蘇生ガイドラインを基礎として作られたコースです。エビデンス(根拠)のある部分はどのガイドラインでも内容に変化はありませんが、少なからず、各国の医療事情によって指導される知識に差が生じる部分があります。
 特にBLS分野においては①呼吸の確認方法、②AEDの小児パッドの適応対齢がAHAと日本では異なっていますし、ACLS分野においては、日本ではあまり使用しない薬剤名や薬剤投与方法がAHAでは推奨されているなど日本とアメリカでもある程度の医療事情や考え方に差が見られています。となると、「AHAコースを受講しても日本の医療現場(蘇生現場)でその知識は使えないの?」と不安を抱く人が出てくることが予想されます。確かに日本版蘇生ガイドラインとアメリカ版蘇生ガイドラインでは推奨事項や薬剤名・投与量が若干異なる部分があることに否定はできませんが、その違いは微々たる程度で、コース受講後にごく一部の内容について知識の転換をしてもらえれば十分にAHAコースで学んだ知識を臨床現場で生かすことはできるのです。
 
 BLS分野とACLS分野で特にその違いを認識しておく知識は以下の部分のみで、それ以外はいくらAHAコースで学んだ内容だとしても日本の医療現場でそのまま使用しても問題はないと思われます。
◆一次救命処置分野
 
 アメリカ
日本(医療従事者向け)
呼吸の確認
気道確保をせずに胸の上がりを注視する
従来通り気道確保をし、呼吸を確認する
 小児パッドの使用年齢
 8歳未満
 おおむね6歳まで
 
 日本でも一般市民向けコースでは気道確保を用いた呼吸の確認方法は指導していません(医療従事者であっても呼吸の確認方法はあくまでも方法論の問題ですから、どちらを選択しても問題はないはずです)。また、便宜上の問題でAEDの小児パッドの対象年齢は小学校に入学するまでを適応とし、小学校入学後は成人用パッドの使用が可能と定めているようです。
 
◆成人二次救命処置分野
 
 アメリカ
日本 
 SVTの使用薬剤
アデノシン6mg→12mg→12mg
アデホス(ATP)10mg→20mg→20mg 
アミオダロン
300mg静注
125mgを5%ブドウ糖100mlに溶解し10分間でDiv 
 心停止へのアトロピン
アルゴリズムから完全に削除 
心静止に対して一部使用を容認 
※日本ではアミオダロンの代用薬としてシンビット(ニフェカラント)に関してもガイドラインに記載がある。
 
 成人二次救命処置分野のアミオダロンの心停止症例に対する投与量・方法に関しては、日本では薬剤の添付文章に記載されているものがあくまでも上記の通りであるため、そのように推奨されることが日常的となっています。しかし、JRC日本版蘇生ガイドラインや日本循環器学会が出している循環器医のためのガイドラインでは「アミオダロン300mg静脈内投与」という記載が見られるため、アミオダロンをACLSコースで指導された通りに日本の医療現場で使用したとしても完全に否定されるかというと必ずしもそうとは言い切れない部分もあります(あくまでも担当医の判断次第)。
⇒アミオダロンの投与量・投与方法に関しては、先日国内でも300mg静脈内投与が正式に認められました。また、毒薬ではなく劇薬の指定に変更となっています。(⇒詳細
 
 AHA松戸ECCトレーニングサイトではこれらの知識の違いに関してAHAコース終了後に特別資料を使用して受講生の皆さんに説明しています。AHAコース中はあくまでもアメリカ版ガイドラインの内容のみで指導しますが、どうしても日本の医療現場で勤務するには日本の事情に合わせた知識に変換させなければいけない部分が出てきます。その一部だけを「日本ではこのように推奨されている」と知識を追加説明しています。これもすぐに現場でコースで学んだ内容を生かすことができるようにとの考えからです。
 
 これからも引き続き、「受講生のために」を大切に頑張っていきます。